下流指向

下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉 (講談社文庫)

下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉 (講談社文庫)

内田樹氏の書く話は、特定の事象を安易に一般化して論じすぎているような気がしてイマイチ読んでてフラストレーションがたまってたんですが、この本は案外面白く読めました。やっぱり氏が大学教員として苦労されているからかな。
一番印象的だったのは、家庭内労働の消滅によって、子供達が労働主体でなく消費主体として人生をスタートさせている、よって教室は不快と教育サービスの等価交換の場となる、というくだり。なるほどなあ。あとは

第一次産業の従事者というのはどこでも激減していますね。林業なんか後継者がいませんかがら、あと数十年で日本から消滅するかもしれない。それは労働がきついとか収入が少ないということより以上に、植林してから伐採して収穫が回収されるまでに百年というような途方もない時間がかかるからだと思います。キーボードを叩けば数分間で巨額の収入が得られるときに、今やっている仕事の成果が二世代後にならないと回収できないというような時間のかかる事業はグローバリズム的には論外なんです。でも、実際には、人間社会のインフラのかなりの部分は、そういう気の遠くなるようなロングスパンの仕事で支えられている。そのことを国民的規模で忘れようとしている。

なんか、例の事業仕分けのことを思い出してしまいました。
「それは何の役に立つんですか?」「結局使えるのか使えないのか」に対する答えが出るのがいったいいつになるか分からない事業もあるわけですが、それに対して仕分け人はロングスパンでものを考えずに「予算というアクションに対して、すぐに結果というリアクションが出ないものは無駄」という観点で事業を切り分けていくと、そりゃロングスパンの仕事なんて論外でしょうよ。
でも、ロングスパンの仕事のほうが大事なことが多いと思いますよ、きっと。
ほかにも、師弟関係についてとか、いろいろ。街場の教育論も、読んでみようかなあ。