産婦人科医逮捕の件について

以前ちょっと(id:tempo_lab:20060222#p3)書いたのですが、いまだに自分の考えをまとめ切れません。自分の考えをきちんと誤解を生まないように、書くっていうのはとても難しい。

とりあえず本件について、僕が状況の推移を見るのに使わせていただいているサイト↓
ザウエリズム
ある産婦人科医のひとりごと

医師不足、地域医療、医療過誤産婦人科医療、医療システムなど、現在医療現場が抱えている問題の多くを一気に噴出させた問題だと思います。確かに、今回の件で若い母親を亡くしたご家族の心痛は想像に余りあるものだと思います。しかし、その心情に同情することと、医師を刑事訴追するということは全く違う意味を持つのではないのでしょうか。

今回の件で、産科婦人科学会など専門家の集まりが抗議の声を上げています(http://www.jsog.or.jp/news/html/announce_10MAR2006.html)。しかし、報道では

県警は専門家から話を聴くなどして、多くの血管が密集する胎盤を無理やりはがすと、大量出血して母胎に危険が及ぶ可能性があり、通常なら、無理にはがすべきではないと結論づけた。

などというものがある。いったい、専門家というのは何なのか。学会は専門家の集まりではないのか。警察の結論が正しいならば、学会の言っていることは間違っていることになる。これは、つまり医療の正当性を医師でなく、警察や司法が決定するという流れになっているのではないか。我々が6年間医学部で学び、臨床で積み上げてきた知識よりも、警察が決めた治療方針に従うべき、ということなのか。

福島地検の片岡康夫次席検事は、「術前で『付着』に気づいた時点で罪に問うているわけではない。手術中、手ではがれなかった時点で子宮摘出に移行すべきだった」とする。

つまり、癒着胎盤だと分かったらさっさと子宮摘出してしまって良い、ということなのか。我々医師に子宮温存を試みるということ自体が犯罪である、とこの検事は言っているのではないか。

医師を刑事訴追する、というのはそういうことなのだと思う。もしそういう世の中になるのだったら、司法にきちんと犯罪であるケースと犯罪でないケースの線引きをしてもらいたいと思う。実際の医療には、そんなボーダーラインのケースが山ほど存在しているのだ。

真相が報道やネット上で明らかにされて行くにつれ、僕もやはり今回の件は不当逮捕であると考えます。今回の件が有罪となるのならば、極論すればたとえば注射を失敗したら業務上過失致傷で逮捕されるかもしれないではないか、と多くの医療者は考えるのではないでしょうか。そのへんが、医療者と非医療者の考え方の乖離なのかもしれませんが。

個人的には半熟先生の更新日記の3/13分が、今回の件で読んだ記事の中では心の中にすとんと落ちてきました。いや、人の引用ばかりで申し訳ないのですが、今回の件に関しては本当に、混乱している。まとまらなくてすみません。

あー、非医療者の方との対話は必要なんだけど、その前にお互いの間の溝を埋める努力が相当必要なのでしょう。